地球温暖化の対策に、カーボンニュートラルの施策が強化されています。カーボンニュートラルの施策が最もインパクトを受けるのは工業界であります。なぜなら、製品を来るための装置製造、部材製造において、全ての工程での化石燃料の電力によらないカーボンニュートラルが要求されます。カーボニュートラルを満たさない場合は、炭素放出量に従って炭素税が課税される世の中になります。商用の窒素ガスは化石燃料を用いた電力によって精製されおり、カーボンニュートラルな物質ではないと言えます。

 MCSは、カーボンニュートラルの重要なエネルギーである水素エネルギーに注目し、燃料電池の電力、熱エネルギーだけではなく、無駄に捨てられている排気ガス中の高濃度の窒素ガスを利用する技術を10年来検討してきました。以下はその開発成果と窒素ガス生成技術の意義などについて紹介しています。

燃料電池の原理

 図1は、燃料電池の原理を示します。

1.水素(H2)が電子(e)と水素イオン(H+)に分かれます。

2.水素から別れた電子は外部回路を伝って空気極へ移動します。この電子の移動と逆方向が電流の向きなります。
 水素イオン(H)は燃料極と空気極を隔てている膜(電解質膜)の中を空気極に向って移動します。

3.電子や水素イオンが空気極へ到達し、酸素と反応して水となります。

 その際、導入された空気(約79%が窒素)は不活性ガスですので空気極からそのまま排気されます。空気極からの排気ガスは酸素が消費されていますので、90%以上の高濃度の窒素ガスが得られます。この高濃度窒素ガスを有効に利用します。カーボンニュートラルな水素を用いれば、ほぼカーボンニュートラルな窒素ガスが得られます。

図1.燃料電池の原理を示す図

燃料電池を用いたカーボンニュートラルな窒素ガス生成技術の開発

 工場製品の製造、加工等において、図2に示すように窒素ガスが必須要件として使われている市場がたくさんあります。

 窒素ガスは空気中に無尽蔵にあるので安価でクリーンなイメージがありますが、水素ガスに次いで高価なガスであります。しかし、カーボンニュートラルな製法で作られたガスでありません。商用の窒素ガスは空気から酸素、窒素を電力により冷却し分離し、そのコストは大部分が化石燃料によるものです。

リフロー半田付け装置のように大流量を必要とする装置では、頻繁に使用すれば年間数百万円オーダーの経費がかかります。

 半田装置、窒素ガス雰囲気炉、フライヤー装置、アルミ鋳造装置などでは、多量の窒素ガス、電力、熱を必要とします。


 再生可能エネルギーを用いて生成した水素を用いた燃料電池を用いれば、電気、熱の他に図2のように無尽蔵にある空気(窒素比率78%)から酸素ガスだけを消費させて、高濃度のカーボンニュートラルな窒素ガスが得られます。この高濃度の窒素ガスを更に図2のように酸素除去すれば高濃度の窒素ガスが得られます。従って燃料電池は一つの窒素ガス生成装置と見なすことが出来ます。「窒素ガス」、「電気」、「熱」の3要素を得ることが出来るはずとのアイデアを出し、それを実証し特許出願しました。

 窒素ガスを利用する目的は酸化防止のため利用が多く、熱も使用条件の重要な要素となります。例えばリフロー半田付け装置のような場合は、熱自体も必須要件となります。さらに大電力も必要とされます。図2に示すような装置などに適用出来ます。

本技術の意義
①窒素ガス・電力・熱の3点を同時必要とする企業に非常にメッリトが大きい。
 窒素ガスの生成利得は電力、熱の生成の利得より数倍大きい。この理由は、窒素ガス自体の価格が高いことと、排気中に含まれる窒素ガスが多量にあるからで、つまり燃料電池に導入する空気の約80%が窒素ガスだからです。


②カーボンニュートラル(CO2低減)の推進に寄与します。

これは政府が2050年までに進める計画である「カーボンニュートラルを伴うグリーン戦略」のコンセプトに適合した技術、製品と考えています。

③エネルギー(自然 AND/OR 人工)の利用効率が上がります=光熱費の低減などに繋がります。

本技術を燃料電池に適用すれば、電力・熱生成だけの燃料電池の機能に新たな利用価値を付加したもので、今後の燃料電池の利用・普及拡大に資するものと考えています。

図2. 燃料電池を用いた窒素ガス生成装置のイメージ図

窒素ガス利用分野

 窒素ガスは空気の80%程度を占め、無尽蔵にあるため安価と思ってしまいますが、ボンベ、液体窒素で購入すると水素ガスに次いで高価なガスであり、大量に使用する利用分野ではかなりの製品コストの負担となります。

 窒素ガスは、一般に酸化をさせたくない、もしくは嫌う分野に使われています。酸化する原因は、高温や酸素がある環境であり、それを抑制するガスに窒素ガスが使われています。高温環境を作り出し維持するには大量の電力が必要となります。燃料電池が単に電力、熱だけでなくカーボンニュートラルな窒素ガスが得られることは、窒素ガスを利用する分野では極めて有用です。表1に産業界で窒素ガスが使わているさまざまな分野を示します。

表1. 窒素ガスが利用されている分野

■電子・電気分野
リフロー半田付け装置
接合窒素ガス装置
電子基板の保管庫

■鋳造・ダイキャスト分野
アルミ・鉄溶解窒素ガス供給装置

■不活性ガス雰囲気加工分野
圧延・焼鈍用窒素ガス雰囲気炉

■食品分野
食品保存用窒素ガス供給装置
フライヤー(揚げ物)装置
CA貯蔵窒素ガス供給装置
(CA:Controlled Atomossphere:空気調整)

■機械加工分野
ドライカット装置
(油切削・研磨油代替)

■倉庫・保管庫分野
電子部品の保管
美術館・文化財の保管

■輸送分野
自動車タイヤ
船舶窒素ガスパージ装置

■化学分野
脱酸素用ガス用
冷却ガス用

燃料電池を用いた窒素ガス生成技術の実証

  本技術の基本実証開発は、2017年度から2019年度の佐久市ものづくり補助事業の支援を受け開発を行いました。

図3は、上記の開発を行い、本技術の実証した基本システムを示します。

1)水素ガスは市販ボンベからとソーラーパネルで発電した電力を用い、水の電気分解により水素ガスを生成し、水素ガス吸蔵合金ボンベに貯え使用しました。

2)燃料電池には、図のように圧力・流量制御された水素ガス、空気が導入されます。

3)燃料電池の排気系の空気極からは、水素と酸素との反応で生じ水と窒素ガス、残留酸素ガスが排出されます。

4)排気されたガスは水が含まれているので除湿部で水が除去されます。その後、排気ガスは一旦、排ガスタンクに収容されます。

5)排ガス中の水が除湿されたガスは、増圧装置で増圧され、窒素ガスフィルターで、排気ガスに含まれる残留酸素ガスを除去し、さらなる高濃度窒素ガスが生成されます。

 特に、窒素ガスフィルターは、導入ガスの酸素濃度が小さくなる程、フィルタリング効果が向上し、空気を使うよりはるかに高純度の窒素ガスが得られることを実証しました。これが燃料電池の排ガスに窒素ガスフィルターを用いる大きな利点です。

6)図3のシステム系において、連続稼働により窒素ガス濃度99.9%以上の高純度の窒素ガスを得ることに成功しました。

この技術により、従来無駄に捨てられていた窒素ガスを有効に利用出来ることを実証し、実用化を目指しています。窒素ガスフィルター技術の応用として、窒素ガスの供給システムも開発しています。

図3. 燃料電池を用いた窒素ガス生成システムの基本実証システム

 図3は、通常の燃料電池の排ガスを用いた窒素ガスシステムの実証で、燃料電池の空気、水素のガス圧は1気圧以下です。従って、窒素ガスフィルターへは増圧装置で増圧します。増圧装置を稼働するには電力が必要し、その分燃料電池で発電する電力を減じます。

 図4は、燃料電池に供給する空気、水素ガスの圧力を高圧して利用する方法を示します。圧力は7気圧程度にしてます。その排ガスを除湿フィルターで除湿し、そのまま窒素ガスフィルターに導入し窒素ガス分離する方法であります。グラフに圧力の推移を示します。

 これにより、7気圧以下で99.9%の窒素ガス濃度を確認し実証しました。この方式は、増圧装置を使わず、高圧のエネルギーを利用することにより、究極の省エネ化と構造をシンプル化出来る大きな利点があります。

図4. 高圧燃料電池の排ガスを用いた窒素ガス生成実証システム

本技術の特許

 本技術について、登録、公開された特許を以下に示します。

①特許6069626号
出願日:2012年5月7日
発電の際の電力及び排ガスを利用する半田付け装置及び半田付け方法 
②特許6069631号
出願日:2016年3月17日
 発電の際の電力及び排ガスを利用する半田付け装置及び半田付け方法
③特許6379341号
出願日:2016年12月2日
 加工装置又はシステム用の発電装置及び発電システム
④特許6606675号
出願日:2018年6月27日
 加工装置に電力及び不活性ガスを供給可能な発電装置及び加工システム
⑤特許6925602号
出願日:2017年4月28日
  加工装置又はシステム用の発電装置及び発電システム
⑥特開2019-129110  電力・低酸素ガスを供給可能な装置及び方法
⑦特開2019-173925  自然エネルギーを利用した圧縮ガス供給システム及び装置、並びに電力供給システム
⑧特開2020-149838    高圧の燃料電池排ガスをフィルタリングする窒素ガス生成方法及び装置

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